「・・・・・・スン・・・・ジョ・・・」
「ハニ・・大丈夫か?」
「私・・・・・」
ハニが何か言いたいのは判っていたが、少しでも長くここにいて欲しい。
自分に出来る事は、ハニを安心させることだ。
「ジュング殿が父上と母上を、 ギテ様がスンハを連れてくるから。」
掛け布団の中ならハニは手を出した。
細い手にしっかりと握られている赤い物がチラリと見える。
その手の下にスンジョは両手で受けるように赤い物を受け取った。
手の中に落ちたのは、昔スンジョが送ったノリゲとよく似た色違いのノリゲだった。
「スンハが・・・・この間来た時に私に・・・・元気になってと・・・・」
一時も離さなかったのだろう。
スンジョが付き添っていた時もノリゲを握っていた方の手が開いている事は無かった。
「七宝焼き(チルポコンイェ)の・・・・・箱・・・・」
ハニが15歳になった時に母から送られた七宝焼きの箱が枕元に置かれている。
その箱を開けて欲しいと思ったスンジョは、その中に古いノリゲが有った。
スンジョにもそれは見覚えがある。
ハニが母グミが付けていたノリゲを幼い頃に欲しがっていた。
グミが結婚する時にその母から受け継ぎ、今度はそれをハニが受け継いだ。
「それを・・・・・スンハに・・・・・」
一言話すことも小さな声でもハニにとったら、それが精一杯の力だった。
「もう話さなくていいよ。朝になったら楽になるから・・・・・・こうして私が抱いていてあげるから、何も心配しなくていいよ。」
スンジョは寝返りさえも打てなくなったハニを、布団から出して自分の胸に抱いた。
この世に誕生して二十数年。
幸せだったのだろうか。
好きな相手と結婚が出来る時代ではない。
病気になれば、十代で亡くなる人も沢山いる。
夫以外の子供を生むことを胸に秘め、夫に負い目があるがそれでもその夫を好きになろうとした。
夫との子供が生まれると、今度は治らない病に罹っていた。
それからは布団の上での生活しかないが、夫は優しく尽くしてくれた。
妻としてはハニはきっと何も出来なかったと悔やんでいるはずだ。
スンジョに抱かれてからハニは、話をすることに疲れたのか、目を閉じて幸せそうに微笑んでいる。
「ハニ・・・・・雪が降る前に、昔遊んだ山に行こうか?今頃は水が冷たいがきっと一番美味しいはずだ。」
ここ数日いつ雪が降るのか判らないくらいの空の日が続いていた。
東の空が白み始めると、その空は春の日の空のように温かく見える。
「ハニ・・・・太陽が上がり始めたよ。」
バタンと門扉が勢いよく開き、ジュングとグミとスチャンの声が聞こえた。
それに続いてギテが帰って来たのか、事情を聞かされて泣いているスンハの声も聞こえた。
「ハニ、みんな帰って来たよ・・・・・ハニ?」
ほんの少し前までハニはまだ息をしていた。
門扉が開いた音を聞いた時に、今思い起こせばスンジョの身体にハニの軽くなった身体の全体重が掛った。
ハニはみんながここに集まるのを待って、わずかに灯っていた命の灯が消えた。
バタバタと二人の小さな足音が聞こえると、ハニとスンジョがいる部屋の戸が勢いよく開いた。
「「お母様!」」
同じ顔をした小さな女の子と男の子は、同時に叫んで動かなくなった母と、母を抱いている父の側に駆け寄った。
双子たちはどんなに母を呼んでも動かず、目を開けて見てくれない母の命の灯が消えたことを知った。
ハニが息を引き取ったその時に、夫が家を出てからすぐに陣痛が始まったヘラは女の子を出産した。
ヘラは政略結婚だと割り切っている妻だ。
夫が妹と逃げていた時期があり、その時に出来た双子がいる事もどこかからの情報で知っていた。
人に恋愛感情を持つ人間ではなかったが、王に気に入られた男スンジョには生まれて初めて愛と言う感情を持った。
ヘラは夫であるスンジョには心を見せず、政略結婚として命じられた自分の立場をわきまえていた。
冷たい心の中の暖かい部分と、今はいないハニに対しての気持ちは誰にも見せないまま・・・・・

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「ハニ・・大丈夫か?」
「私・・・・・」
ハニが何か言いたいのは判っていたが、少しでも長くここにいて欲しい。
自分に出来る事は、ハニを安心させることだ。
「ジュング殿が父上と母上を、 ギテ様がスンハを連れてくるから。」
掛け布団の中ならハニは手を出した。
細い手にしっかりと握られている赤い物がチラリと見える。
その手の下にスンジョは両手で受けるように赤い物を受け取った。
手の中に落ちたのは、昔スンジョが送ったノリゲとよく似た色違いのノリゲだった。
「スンハが・・・・この間来た時に私に・・・・元気になってと・・・・」
一時も離さなかったのだろう。
スンジョが付き添っていた時もノリゲを握っていた方の手が開いている事は無かった。
「七宝焼き(チルポコンイェ)の・・・・・箱・・・・」
ハニが15歳になった時に母から送られた七宝焼きの箱が枕元に置かれている。
その箱を開けて欲しいと思ったスンジョは、その中に古いノリゲが有った。
スンジョにもそれは見覚えがある。
ハニが母グミが付けていたノリゲを幼い頃に欲しがっていた。
グミが結婚する時にその母から受け継ぎ、今度はそれをハニが受け継いだ。
「それを・・・・・スンハに・・・・・」
一言話すことも小さな声でもハニにとったら、それが精一杯の力だった。
「もう話さなくていいよ。朝になったら楽になるから・・・・・・こうして私が抱いていてあげるから、何も心配しなくていいよ。」
スンジョは寝返りさえも打てなくなったハニを、布団から出して自分の胸に抱いた。
この世に誕生して二十数年。
幸せだったのだろうか。
好きな相手と結婚が出来る時代ではない。
病気になれば、十代で亡くなる人も沢山いる。
夫以外の子供を生むことを胸に秘め、夫に負い目があるがそれでもその夫を好きになろうとした。
夫との子供が生まれると、今度は治らない病に罹っていた。
それからは布団の上での生活しかないが、夫は優しく尽くしてくれた。
妻としてはハニはきっと何も出来なかったと悔やんでいるはずだ。
スンジョに抱かれてからハニは、話をすることに疲れたのか、目を閉じて幸せそうに微笑んでいる。
「ハニ・・・・・雪が降る前に、昔遊んだ山に行こうか?今頃は水が冷たいがきっと一番美味しいはずだ。」
ここ数日いつ雪が降るのか判らないくらいの空の日が続いていた。
東の空が白み始めると、その空は春の日の空のように温かく見える。
「ハニ・・・・太陽が上がり始めたよ。」
バタンと門扉が勢いよく開き、ジュングとグミとスチャンの声が聞こえた。
それに続いてギテが帰って来たのか、事情を聞かされて泣いているスンハの声も聞こえた。
「ハニ、みんな帰って来たよ・・・・・ハニ?」
ほんの少し前までハニはまだ息をしていた。
門扉が開いた音を聞いた時に、今思い起こせばスンジョの身体にハニの軽くなった身体の全体重が掛った。
ハニはみんながここに集まるのを待って、わずかに灯っていた命の灯が消えた。
バタバタと二人の小さな足音が聞こえると、ハニとスンジョがいる部屋の戸が勢いよく開いた。
「「お母様!」」
同じ顔をした小さな女の子と男の子は、同時に叫んで動かなくなった母と、母を抱いている父の側に駆け寄った。
双子たちはどんなに母を呼んでも動かず、目を開けて見てくれない母の命の灯が消えたことを知った。
ハニが息を引き取ったその時に、夫が家を出てからすぐに陣痛が始まったヘラは女の子を出産した。
ヘラは政略結婚だと割り切っている妻だ。
夫が妹と逃げていた時期があり、その時に出来た双子がいる事もどこかからの情報で知っていた。
人に恋愛感情を持つ人間ではなかったが、王に気に入られた男スンジョには生まれて初めて愛と言う感情を持った。
ヘラは夫であるスンジョには心を見せず、政略結婚として命じられた自分の立場をわきまえていた。
冷たい心の中の暖かい部分と、今はいないハニに対しての気持ちは誰にも見せないまま・・・・・

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