二人そろって向かい合わせで朝食を摂り、落ち着いたこ漢陽から輿が到着した。
ポン家ではなくペク家の見慣れた輿は、産まれてから育った屋敷に帰ることが本当に夢ではなかったと思った。
スンジョに手を取られ輿に乗ると、ゆっくりと漢陽向かって動き出した。
わずかな隙間から入る少し冷たい風も、もう肌で感じることはない。
ハニは目を閉じて、迎えに来てくれた兄の顔を思い出していた。
最後にまともに目を合わせたのは記憶の中では13歳だった。
祖母のパルボクの躾に怯えて、いつの間にか頼っていた兄の顔さえ見ることもできなくなったが、科挙の試験に受かり官吏としてりりしく成長した兄の顔がまぶしく見えたのだった。
目を閉じていてもその想いが表情に表れているのか、ミナと乳母のヒョンジャは何年も見ることのなかったハニの穏やかな表情に安堵していた。
ハニが漢陽に戻って数日後には、厳かな結婚式が行われた。
「ハニ、今まで厳しくして悪かった。お前もハナのように遠くに行ってしまうのじゃないかと思って、厳しくしていただけだよ。スンジョの妻になれば、もうどこにも行ってしまうことはないと思っていても、双子として育てたのだからそれはかなわないと思って・・・・許しておくれ・・・・」
「おばあ様・・・ずっとハニはおばあ様の孫でいさせてください。お父様、お母様・・・・これからもハニはお二人の娘のままでいさせてください。」
自分を育ててくれた両親の横には、緊張した面持ちのギドンが立っていた。
ハニも同じように緊張して、少し息を整えてから小さく頭を下げた。
「お父様・・・・今日の日の為にお祝いの食事を作ってくださってありがとうございます。亡くなったお母様の好きだった桜の花のお菓子も、私の為に用意してくださり感謝しています。お母様の為にもお父様はずっと健康で過ごしてください。」
ギドンは最愛の女性の生き写しのような娘に、涙をいっぱい浮かべてただ頷いた。
漢陽の中心から離れているペク家は、いつもひっそりとしていたが、この日は屋敷の扉が開かれて華やかな飾りが通りからもよく見えた。
カチェと冠をつけヨンジゴンジが顔に施され、圓衫(ウォンサム)大帯を着用してセットンを当てたハニは、庭の桜の木を見ていた。
「お嬢様の顔が、あの桜のように今日はほんのりと赤みがさしていてお綺麗です。」
ずっとハニについていてくれたミナとヒョンジャの目に涙が浮かんでいた。
屋敷の中をうかがっている住民たちは、ペク家のお祝い事に嬉しそうにしていた。
その集団の中に、背の高い若い両班の青年が立っていた。
「若君もペク家の若様とお嬢様のお式を見に来たのかい?」
その青年は何も答えなかったが、口元に笑みが見えた。
「ずっと似ていない双子だと思っていたら、ペク家の大奥様の遠縁の娘さんだったって・・・・・産まれた日も同じだなんて、本当に運命のお二人だったって噂ですよ。奥様も遠縁の娘様を大切にお育てになったのだから、本当にうれしいことだと思いますよ。」
「・・・・」
「少し前にポン家の若君の奥方になるかと思ったけど、ポン家の若君が随分と手を尽くしてくれたみたいで、この様子を見たら辛いだろうね。」
ずっと話をただ聞いていただけの青年は、一瞬目頭を押さえて顔を空に向けたが、その話してくれた人に応えた。
「ポン家の若君も、本当はわかっていたと思う。一目惚れしてもお嬢様の瞳に一度もその姿を映らなかった。ただペク家の大奥様に頼まれたからそれに従ったけど、最初からペク家の若君とお嬢様の間に入れないことは知っていた。彼女がいたから頭が悪いポン家の若君も科挙の試験に一度で受かることができた。複雑な思いだけど、祝福していると思うよ・・・・」
「若君・・・まるで自分のことみたいに言うんだね。ほら・・・お嬢様が出て見えた・・・・」
青年はハニの姿を見て安心した。
その青年の姿に気が付いたスンジョは、軽く微笑みながら頷いた。

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ポン家ではなくペク家の見慣れた輿は、産まれてから育った屋敷に帰ることが本当に夢ではなかったと思った。
スンジョに手を取られ輿に乗ると、ゆっくりと漢陽向かって動き出した。
わずかな隙間から入る少し冷たい風も、もう肌で感じることはない。
ハニは目を閉じて、迎えに来てくれた兄の顔を思い出していた。
最後にまともに目を合わせたのは記憶の中では13歳だった。
祖母のパルボクの躾に怯えて、いつの間にか頼っていた兄の顔さえ見ることもできなくなったが、科挙の試験に受かり官吏としてりりしく成長した兄の顔がまぶしく見えたのだった。
目を閉じていてもその想いが表情に表れているのか、ミナと乳母のヒョンジャは何年も見ることのなかったハニの穏やかな表情に安堵していた。
ハニが漢陽に戻って数日後には、厳かな結婚式が行われた。
「ハニ、今まで厳しくして悪かった。お前もハナのように遠くに行ってしまうのじゃないかと思って、厳しくしていただけだよ。スンジョの妻になれば、もうどこにも行ってしまうことはないと思っていても、双子として育てたのだからそれはかなわないと思って・・・・許しておくれ・・・・」
「おばあ様・・・ずっとハニはおばあ様の孫でいさせてください。お父様、お母様・・・・これからもハニはお二人の娘のままでいさせてください。」
自分を育ててくれた両親の横には、緊張した面持ちのギドンが立っていた。
ハニも同じように緊張して、少し息を整えてから小さく頭を下げた。
「お父様・・・・今日の日の為にお祝いの食事を作ってくださってありがとうございます。亡くなったお母様の好きだった桜の花のお菓子も、私の為に用意してくださり感謝しています。お母様の為にもお父様はずっと健康で過ごしてください。」
ギドンは最愛の女性の生き写しのような娘に、涙をいっぱい浮かべてただ頷いた。
漢陽の中心から離れているペク家は、いつもひっそりとしていたが、この日は屋敷の扉が開かれて華やかな飾りが通りからもよく見えた。
カチェと冠をつけヨンジゴンジが顔に施され、圓衫(ウォンサム)大帯を着用してセットンを当てたハニは、庭の桜の木を見ていた。
「お嬢様の顔が、あの桜のように今日はほんのりと赤みがさしていてお綺麗です。」
ずっとハニについていてくれたミナとヒョンジャの目に涙が浮かんでいた。
屋敷の中をうかがっている住民たちは、ペク家のお祝い事に嬉しそうにしていた。
その集団の中に、背の高い若い両班の青年が立っていた。
「若君もペク家の若様とお嬢様のお式を見に来たのかい?」
その青年は何も答えなかったが、口元に笑みが見えた。
「ずっと似ていない双子だと思っていたら、ペク家の大奥様の遠縁の娘さんだったって・・・・・産まれた日も同じだなんて、本当に運命のお二人だったって噂ですよ。奥様も遠縁の娘様を大切にお育てになったのだから、本当にうれしいことだと思いますよ。」
「・・・・」
「少し前にポン家の若君の奥方になるかと思ったけど、ポン家の若君が随分と手を尽くしてくれたみたいで、この様子を見たら辛いだろうね。」
ずっと話をただ聞いていただけの青年は、一瞬目頭を押さえて顔を空に向けたが、その話してくれた人に応えた。
「ポン家の若君も、本当はわかっていたと思う。一目惚れしてもお嬢様の瞳に一度もその姿を映らなかった。ただペク家の大奥様に頼まれたからそれに従ったけど、最初からペク家の若君とお嬢様の間に入れないことは知っていた。彼女がいたから頭が悪いポン家の若君も科挙の試験に一度で受かることができた。複雑な思いだけど、祝福していると思うよ・・・・」
「若君・・・まるで自分のことみたいに言うんだね。ほら・・・お嬢様が出て見えた・・・・」
青年はハニの姿を見て安心した。
その青年の姿に気が付いたスンジョは、軽く微笑みながら頷いた。

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