夕食の時間も、夕食後の時間もいつも通りではなかった。
無口なスンジョとは対照的にスンリはよく話をする男の子だった。
黙って食べているスンジョに、『静かにしろ』と言われた事もなかったから、ハニとスンリの話し声と笑い声でいつも賑やかだった。
15歳にこの家を出て行ったスンハが、ごくたまに帰省した時は外まで声が聞こえていた。
「明日の夕食はどうする?」
「さっきも聞いた。スンリがいないのにスンリの分まで作ったから、それを食べないといけないと言っていただろ。」
「そうだった・・・」
着席する人のいない場所の手つかずの食事を、ハニは黙って見ていた。
「料理の腕もさすがにオ・ギドンの娘らしく、随分と上達したな。」
「でも食事を作るのはやっぱり好きじゃない。」
スンジョと話をしたくないわけではないが、話が続かない。
なにかを話さなければと思えば思うほど、話す言葉を思いつかず間が持たなかった。
「私達、ちゃんと話をしたのはいつだったのかな・・・」
「そうだな、オレ達二人だけでいた時間がなかったから、二人だけの時間を過ごすのに結構緊張するな。二人だけの時間を作って二人だけで過ごすのは難しい事だけど、スンハやスンリがいる頃はハニの考えている事は分かっていたし、ハニもオレが言おうとしている事は知っていたと思う。」
「そうかも・・・」
「間が持たないかもしれないけど、無理に話をする必要もないと思わないか?性格も考えている事も正反対だけど、20年以上一緒に暮らしているから心の中で繋がっていると思わないか?」
「それもそうだね。スンジョ君が何をして欲しいのか、手を伸ばしたら何を取ってほしいのか、言わなくても分かっているし・・・・・・」
スンジョが立ちあがってウッドテラスが見える場所にある二人掛けのソファーに行くと、ハニは小走りに付いて行き並んで座った。
背もたれに掛けてある一枚のブランケットをスンジョは自分とハニの膝に掛けると、ハニはもう一枚のブランケットをスンジョと自分の頭から掛けた。
「こうして隠れてキスをしていた時に、スンハが見つけて自分にもキスをして欲しいと言ったね。」
「あれは結婚してしばらく経った頃だったな。スンハが物心ついてから再開して結婚したのに、スンハとお前でオレの取り合いをよくしていた・・・・・・」
暗い時間の振る雪は、二人の思い出が写りだしているように、小さな事も懐かしく思い出していた。
「いつかはここを離れないといけないね。」
「・・・・・」
スンジョはこのタイミングで話す事を考えていなかったが、ハニは何を考えているのかよく分かっていた。
「ここはそのまま残して、クリニックは閉めようと思う。」
「い・・廃業するにはまだ早いよ。」
「パラン大病院の方から戻って来てほしいと言われているんだ。お袋もそれなりの年齢になっているから、会社を継がなかったけどオレはペク家の長男だから親の面倒は見ないといけない。この家はハニのお母さんが好きだった星空が綺麗に見える場所だから残しておきたい。春夏秋冬が楽しめるこの土地がオレは好きだ。スンハもスンリもここで産まれて育ったから、この家も処分をしたら可哀想だろう。」
「そうだね。私はパパの店を継がなかったけど、家は子供たちが巣立っても帰ってくる場所で、傷ついた子供が変える場所がお母さんだと思う。」
「辛い思いをしたからハニはここに帰って来たんだな・・・・オレもそうかもしれない。ハニが見つけてくれた夢を叶える事が出来たのに、心が満たされなくて何かを探しにここに来たけど、オレの居場所がハニの所だったようにきっとハニのお母さんが導いてくれたんだな。」
肩に廻されていたスンジョの腕に力が入ると、ハニはスンジョの胸の中に倒れ込んだ。
「愛しているよ・・・これからもずっと・・・」
「夢が叶っちゃった・・・スンジョ君の口からそんな言葉は聞けないと思ったけど、お義母さんの好きな星空は見えなくても夢を叶えてくれた・・・・」
静かな雪の降る外と同じように、ハニとスンジョのいるリビングも息遣いだけの静かな空間になった。

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無口なスンジョとは対照的にスンリはよく話をする男の子だった。
黙って食べているスンジョに、『静かにしろ』と言われた事もなかったから、ハニとスンリの話し声と笑い声でいつも賑やかだった。
15歳にこの家を出て行ったスンハが、ごくたまに帰省した時は外まで声が聞こえていた。
「明日の夕食はどうする?」
「さっきも聞いた。スンリがいないのにスンリの分まで作ったから、それを食べないといけないと言っていただろ。」
「そうだった・・・」
着席する人のいない場所の手つかずの食事を、ハニは黙って見ていた。
「料理の腕もさすがにオ・ギドンの娘らしく、随分と上達したな。」
「でも食事を作るのはやっぱり好きじゃない。」
スンジョと話をしたくないわけではないが、話が続かない。
なにかを話さなければと思えば思うほど、話す言葉を思いつかず間が持たなかった。
「私達、ちゃんと話をしたのはいつだったのかな・・・」
「そうだな、オレ達二人だけでいた時間がなかったから、二人だけの時間を過ごすのに結構緊張するな。二人だけの時間を作って二人だけで過ごすのは難しい事だけど、スンハやスンリがいる頃はハニの考えている事は分かっていたし、ハニもオレが言おうとしている事は知っていたと思う。」
「そうかも・・・」
「間が持たないかもしれないけど、無理に話をする必要もないと思わないか?性格も考えている事も正反対だけど、20年以上一緒に暮らしているから心の中で繋がっていると思わないか?」
「それもそうだね。スンジョ君が何をして欲しいのか、手を伸ばしたら何を取ってほしいのか、言わなくても分かっているし・・・・・・」
スンジョが立ちあがってウッドテラスが見える場所にある二人掛けのソファーに行くと、ハニは小走りに付いて行き並んで座った。
背もたれに掛けてある一枚のブランケットをスンジョは自分とハニの膝に掛けると、ハニはもう一枚のブランケットをスンジョと自分の頭から掛けた。
「こうして隠れてキスをしていた時に、スンハが見つけて自分にもキスをして欲しいと言ったね。」
「あれは結婚してしばらく経った頃だったな。スンハが物心ついてから再開して結婚したのに、スンハとお前でオレの取り合いをよくしていた・・・・・・」
暗い時間の振る雪は、二人の思い出が写りだしているように、小さな事も懐かしく思い出していた。
「いつかはここを離れないといけないね。」
「・・・・・」
スンジョはこのタイミングで話す事を考えていなかったが、ハニは何を考えているのかよく分かっていた。
「ここはそのまま残して、クリニックは閉めようと思う。」
「い・・廃業するにはまだ早いよ。」
「パラン大病院の方から戻って来てほしいと言われているんだ。お袋もそれなりの年齢になっているから、会社を継がなかったけどオレはペク家の長男だから親の面倒は見ないといけない。この家はハニのお母さんが好きだった星空が綺麗に見える場所だから残しておきたい。春夏秋冬が楽しめるこの土地がオレは好きだ。スンハもスンリもここで産まれて育ったから、この家も処分をしたら可哀想だろう。」
「そうだね。私はパパの店を継がなかったけど、家は子供たちが巣立っても帰ってくる場所で、傷ついた子供が変える場所がお母さんだと思う。」
「辛い思いをしたからハニはここに帰って来たんだな・・・・オレもそうかもしれない。ハニが見つけてくれた夢を叶える事が出来たのに、心が満たされなくて何かを探しにここに来たけど、オレの居場所がハニの所だったようにきっとハニのお母さんが導いてくれたんだな。」
肩に廻されていたスンジョの腕に力が入ると、ハニはスンジョの胸の中に倒れ込んだ。
「愛しているよ・・・これからもずっと・・・」
「夢が叶っちゃった・・・スンジョ君の口からそんな言葉は聞けないと思ったけど、お義母さんの好きな星空は見えなくても夢を叶えてくれた・・・・」
静かな雪の降る外と同じように、ハニとスンジョのいるリビングも息遣いだけの静かな空間になった。

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