自分の人生で親しくした人間は、数え切れるほど少なかった。
ギョンス先輩とは高校の頃からの付き合いで、ヘラとは大学で知り合ったがギョンス先輩と内縁関係だったころからお互いのパートナーと一緒に食事をしたりすることが時々あった。
病院で仕事をしていても、ただの同僚と言う割り切った考えでの付き合いで、何かを一緒に行動してお互いの家族の話をする事は今までなかった。
同じ国の人間が一人もいない多国籍の石段の仕事で、平和な時間が流れている生活とは違う環境がスンジョの気持ちを変えたのか、とにかく自分で何が人として不足しているのか知りたくて希望した転勤だった。
「どう思いますか?」
「難しいですね。」
「ですよね。ここ数日、負傷した人が運ばれてくる数が多過ぎで、精神的疲労と栄養状態の悪い人との数が同じくらいですよね。電話も盗聴されているようですし・・・・早目に治療ができる場所を移動するしかないですよね。」
「そうですね。」
「赴任期間があと一年ちょっとで終わるでしょうかね・・・・」
田中医師のその話に、スンジョは何も答えなかった。
彼もスンジョも、予定通りの期間で帰国できないという事は薄々気がついていた。
「日本の田中先生と韓国のペク先生は、一号車に乗ってください。荷物は一号車に薬や医療器材が乗っているので二号車で持って行きます。アメリカのジョンソン先生、ワトソン先生は・・・・」
スンジョと田中医師は、事務処理をしている職員の指示で移動するために使う車のステップに足を掛けた。
電話が使えなくなる少し前から情勢は悪くなっているが、ここ数日は特に不安定な日が続いていた。
場所の移動は今朝急遽決まって、荷物をまとめたのだが、最初にここに来た時から生活に必要な物しか持って来ていないから、それほど時間が掛かる事はなかった。
「どれくらいの移動距離ですか?」
「一日車を走らせたところで、国境を越えます。中立の立場の医療団の入国と怪我や病気の人の入国は許可をもらっています。」
国境を越えた所で、通信手段は恐らく自由に使えない。
相手を刺激しないために報道規制は出されているから、この事情が伝わるのは外務省までだろう。
何か一度も聞いた事のない音が遠くで聞こえてしばらくすると、初めて体験するくらいの強い力と衝撃がスンジョたちの乗った車に伝わった。
「スンジョ君!!」
出そうと思っても夢の中では声も出せなかった。
スンジョの名前を呼んだのは確かだけれど、きっとスンジョの名前を言えていなかったはずだ。
「嫌な夢・・・」
心臓がドキドキといつもよりも強く打っていた。
「ハニ・・・ハニ・・・大丈夫か?」
「あ・・・大丈夫・・なんでもない。」
隣の部屋で勉強をしていたのだろう。
ウンジョがハニの声に気がついて、心配して様子を聞きに来たのだ。
大丈夫。
スンジョ君は、絶対に大丈夫だから。
ベッドヘッドの時計は深夜を過ぎたから気温が下がっているのだろう。
薄手のカーテンで、外の冷気が伝わって来たのか、それともぐっしょりと書いている冷や汗で体が冷えたのか、ブルっとして寒気を感じた。
「着替えなきゃ・・・」
ゆっくりとベッドから出て引き出しから着替えを出すと、窓際に近づいて厚手のカーンを閉めようと手をかけた。
ハニたちの部屋から見えるウッドテラスのイチョウの木にあった黄色く色づいていた葉は、いつの間にか一枚も残っていなかった。
イチョウの木から葉が落ちると、冬が訪れたといつもグミは言っていた。

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ギョンス先輩とは高校の頃からの付き合いで、ヘラとは大学で知り合ったがギョンス先輩と内縁関係だったころからお互いのパートナーと一緒に食事をしたりすることが時々あった。
病院で仕事をしていても、ただの同僚と言う割り切った考えでの付き合いで、何かを一緒に行動してお互いの家族の話をする事は今までなかった。
同じ国の人間が一人もいない多国籍の石段の仕事で、平和な時間が流れている生活とは違う環境がスンジョの気持ちを変えたのか、とにかく自分で何が人として不足しているのか知りたくて希望した転勤だった。
「どう思いますか?」
「難しいですね。」
「ですよね。ここ数日、負傷した人が運ばれてくる数が多過ぎで、精神的疲労と栄養状態の悪い人との数が同じくらいですよね。電話も盗聴されているようですし・・・・早目に治療ができる場所を移動するしかないですよね。」
「そうですね。」
「赴任期間があと一年ちょっとで終わるでしょうかね・・・・」
田中医師のその話に、スンジョは何も答えなかった。
彼もスンジョも、予定通りの期間で帰国できないという事は薄々気がついていた。
「日本の田中先生と韓国のペク先生は、一号車に乗ってください。荷物は一号車に薬や医療器材が乗っているので二号車で持って行きます。アメリカのジョンソン先生、ワトソン先生は・・・・」
スンジョと田中医師は、事務処理をしている職員の指示で移動するために使う車のステップに足を掛けた。
電話が使えなくなる少し前から情勢は悪くなっているが、ここ数日は特に不安定な日が続いていた。
場所の移動は今朝急遽決まって、荷物をまとめたのだが、最初にここに来た時から生活に必要な物しか持って来ていないから、それほど時間が掛かる事はなかった。
「どれくらいの移動距離ですか?」
「一日車を走らせたところで、国境を越えます。中立の立場の医療団の入国と怪我や病気の人の入国は許可をもらっています。」
国境を越えた所で、通信手段は恐らく自由に使えない。
相手を刺激しないために報道規制は出されているから、この事情が伝わるのは外務省までだろう。
何か一度も聞いた事のない音が遠くで聞こえてしばらくすると、初めて体験するくらいの強い力と衝撃がスンジョたちの乗った車に伝わった。
「スンジョ君!!」
出そうと思っても夢の中では声も出せなかった。
スンジョの名前を呼んだのは確かだけれど、きっとスンジョの名前を言えていなかったはずだ。
「嫌な夢・・・」
心臓がドキドキといつもよりも強く打っていた。
「ハニ・・・ハニ・・・大丈夫か?」
「あ・・・大丈夫・・なんでもない。」
隣の部屋で勉強をしていたのだろう。
ウンジョがハニの声に気がついて、心配して様子を聞きに来たのだ。
大丈夫。
スンジョ君は、絶対に大丈夫だから。
ベッドヘッドの時計は深夜を過ぎたから気温が下がっているのだろう。
薄手のカーテンで、外の冷気が伝わって来たのか、それともぐっしょりと書いている冷や汗で体が冷えたのか、ブルっとして寒気を感じた。
「着替えなきゃ・・・」
ゆっくりとベッドから出て引き出しから着替えを出すと、窓際に近づいて厚手のカーンを閉めようと手をかけた。
ハニたちの部屋から見えるウッドテラスのイチョウの木にあった黄色く色づいていた葉は、いつの間にか一枚も残っていなかった。
イチョウの木から葉が落ちると、冬が訪れたといつもグミは言っていた。

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