父と娘、それに数人が住み込んでいるオ家の屋敷での生活の一日目。
父に一部屋ずつ案内してもらい、ハニが使う部屋は母の部屋だった。
「この部屋を覚えているかい?」
「はい、私が気分を悪くした時に休んだ部屋です。」
ギドンは庭に面している戸を開けると、ハニを手招きした。
「ハニの為に本来なら一部屋用意してあげたかったけど、両班として裕福ではないからすまない。」
「そんな・・私はこの部屋が好きです。」
大きな屋敷ではないが、庭の広さはおそらくかなりある。
母が使っていた部屋から見える所にある紅梅は、どこか芙蓉楼の紅梅と似ている気がした。
「オ家は紅梅、ペク家は白梅、ポン家は蝋梅・・・・・・梅が縁で学士の頃に友達になった。ペク家は名家で王族とのつながりもあるが、オ家とポン家は力のない両班。父が濡れ衣で流刑された時は、友達との縁も終わったと思ったが、ペク家が芙蓉楼に母を匿ってくれた。かなり援助もしてもらったのに、何も返すことはできないが身分が回復してくれたことを一番喜んでくれたよ。ポン家は、奥方が嫡子のジュングを産む時に亡くなり、芙蓉楼で妓生として働き始めた母を守るために後妻として迎えようとしてくれた。」
幼い頃だったが、母がどこかの両班の後添えになると聞いていたのはうっすらと覚えていた。
「その話は何となく覚えています。私も養女として迎えていただくことになっていました。」
「後妻と言っても形だけの後妻で、私の濡れ衣が晴れるまで・・・・その間にどこかの両班の妾になることを防ぐためだった。ハナの体の具合もよくないから、後妻として身請けして治療をするように手はずを整えていたけど・・・ハナが私に悪いからと中々受けてくれなかったんだよ。」
きっと母も父の親友たちと同じように、必ず父の濡れ衣が晴れると信じていたのだろう。
芙蓉楼とは違い人の話し声も笑い声もほとんど聞こえない静かな屋敷。
使用人が庭を掃除する箒を履く音と、馬小屋で馬が動いている音と、台所で食事の準備をしている音が心地よかった。
「ハニにこんなことを言っては傷つくかもしれない・・・・・」
何か申し訳なさそうにしている父の表情に、ハニは黙って微笑んだ。
「ハニと一緒に暮らすようになったけど、お前もどこかの両班の息子に嫁ぐ年齢が過ぎてしまって、この先のことを思うと申し訳なくてな・・・・本当に引き取ってよかったのか、妓生として過ごした方が本当は良かったのかと不安で仕方がないよ。」
15・6歳で大体の両班の娘は嫁いでいく。
ハニは18歳を過ぎ、もうすぐ19歳になる。
30を過ぎたら、両班の後添えになるか妾になるかしか嫁ぐことは難しいだろう。
だけど、ハニはどこかの両班に嫁ぐことは何も考えていない。
「お父様、私は生まれてからずっと妓楼で暮らしていました。どこかの両班の家に嫁ぐことは難しいでしょう。名家であればあるほど、そうではなければないで、どんな事情があっても妓楼で生活をしていた娘を嫁にすることはありません。私はお母様が愛したお父様と暮らせるだけで充分です。」
娘の言葉に父は涙をこらえることができなかった。

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父に一部屋ずつ案内してもらい、ハニが使う部屋は母の部屋だった。
「この部屋を覚えているかい?」
「はい、私が気分を悪くした時に休んだ部屋です。」
ギドンは庭に面している戸を開けると、ハニを手招きした。
「ハニの為に本来なら一部屋用意してあげたかったけど、両班として裕福ではないからすまない。」
「そんな・・私はこの部屋が好きです。」
大きな屋敷ではないが、庭の広さはおそらくかなりある。
母が使っていた部屋から見える所にある紅梅は、どこか芙蓉楼の紅梅と似ている気がした。
「オ家は紅梅、ペク家は白梅、ポン家は蝋梅・・・・・・梅が縁で学士の頃に友達になった。ペク家は名家で王族とのつながりもあるが、オ家とポン家は力のない両班。父が濡れ衣で流刑された時は、友達との縁も終わったと思ったが、ペク家が芙蓉楼に母を匿ってくれた。かなり援助もしてもらったのに、何も返すことはできないが身分が回復してくれたことを一番喜んでくれたよ。ポン家は、奥方が嫡子のジュングを産む時に亡くなり、芙蓉楼で妓生として働き始めた母を守るために後妻として迎えようとしてくれた。」
幼い頃だったが、母がどこかの両班の後添えになると聞いていたのはうっすらと覚えていた。
「その話は何となく覚えています。私も養女として迎えていただくことになっていました。」
「後妻と言っても形だけの後妻で、私の濡れ衣が晴れるまで・・・・その間にどこかの両班の妾になることを防ぐためだった。ハナの体の具合もよくないから、後妻として身請けして治療をするように手はずを整えていたけど・・・ハナが私に悪いからと中々受けてくれなかったんだよ。」
きっと母も父の親友たちと同じように、必ず父の濡れ衣が晴れると信じていたのだろう。
芙蓉楼とは違い人の話し声も笑い声もほとんど聞こえない静かな屋敷。
使用人が庭を掃除する箒を履く音と、馬小屋で馬が動いている音と、台所で食事の準備をしている音が心地よかった。
「ハニにこんなことを言っては傷つくかもしれない・・・・・」
何か申し訳なさそうにしている父の表情に、ハニは黙って微笑んだ。
「ハニと一緒に暮らすようになったけど、お前もどこかの両班の息子に嫁ぐ年齢が過ぎてしまって、この先のことを思うと申し訳なくてな・・・・本当に引き取ってよかったのか、妓生として過ごした方が本当は良かったのかと不安で仕方がないよ。」
15・6歳で大体の両班の娘は嫁いでいく。
ハニは18歳を過ぎ、もうすぐ19歳になる。
30を過ぎたら、両班の後添えになるか妾になるかしか嫁ぐことは難しいだろう。
だけど、ハニはどこかの両班に嫁ぐことは何も考えていない。
「お父様、私は生まれてからずっと妓楼で暮らしていました。どこかの両班の家に嫁ぐことは難しいでしょう。名家であればあるほど、そうではなければないで、どんな事情があっても妓楼で生活をしていた娘を嫁にすることはありません。私はお母様が愛したお父様と暮らせるだけで充分です。」
娘の言葉に父は涙をこらえることができなかった。

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