「ペク先生、今日も行かれなかったのですか?」
「情けないですが・・・娘の成長も写真や動画でしか知る事が出来ないので、今度は行こう明日は行こう今日は行こうと思っているのですが、いざ行く時になると足が向かなくて・・・」
「誰が悪いわけじゃないですけど、先生が前に進まないと奥さんも戻らないのじゃないですか?」
分かっていた。
誰が悪いわけじゃないと、オレとハニに関わった人たちはそういうが、妻を守る事が出来なかった自分に責任はある。
それも目の前で起きた事なのに、このオレが身体が動かなかったとは情けなくて言い分けにもならない。
目を閉じてハニを想うと、三年前の出来事でも昨日のことのように思い出される。
机の引き出しから一枚の写真を取り出すと、そこに移っているハニを指でなぞった。
何度もそうしていたのか、所々色が変わっていた。
写真のハニは恐らく臨月に近い時期なのか、大きくなったお腹に手を添えて産まれてくる我が子を待っているように幸せな笑みを浮かべていた。
三年前のあの時は、穏やかな春の陽射しが降り注ぐ明るい日だった。
産休になったハニはあの日、定期健診に病院に来た時にスンジョと待ち合わせをしていた。
病院向かい側の公演で待っているとハニからのメールがあり、夜勤明けのスンジョはハニと一緒に定期健診に行く事になっていた。
「じゃあ、お先に・・・・」
「奥さんとデートですか?鼻の下が長くなっていますよ。」
「定期健診ですよ。恐らくこのまま入院になるのじゃないかな。」
顔に表情を出さなかったスンジョも、ハニと結婚をしてからは気が付かないうちに心の中で思っている事が顔に表れるようになった。
特に結婚5年後に待ち望んでいた子供を妊娠したとハニから連絡が来てからは、誰から見てもいつも幸せそうに見えたと言われた。
「今、通用口を出たけど公園のどの辺りにいる?」
<もう終わると思って、今から公園前の横断歩道を渡る所!>
スンジョは通用口を出て左に廻ると見える公園の方を見た。
どんなに遠くにいても、ハニはスンジョの素箍を見つける事が出来る。
大きく手を振ると聞こえるはずのないハニの声が聞こえてくるのは、スンジョだけにしか分からないお互いの空気の流れだろう。
「走るなよ。お腹が大きくなっているから、前に転びやすい。」
<分かってる!分かっているけど、スンジョ君に会えると思うとスピードが速くなるの>
「じゃあ、電話を切るから・・・」
スンジョは白い歯を見せて、嬉しそうな表情を浮かべていた。
一瞬携帯を上着のポケットに入れようと、視線をハニの方から自分の上着の方に変えた時、猛スピードで走ってくる車のエンジン音が聞こえた。
「ん?」
公園近くでたまに猛スピードで走る車は見かけるが、危ないなぁとただそう思うだけで何も気にしないで顔を上げた。
公園前の道路の横断歩道の信号が緑に変わり、歩行者たちは普通に渡り始めた。
ハニはそれよりも少し遅れて横断歩道に足を出した時に、その集団の中にさっき聞こえたエンジン音の車がスンジョが見ていたハニの姿と重なった。
「ハニ!」
スンジョがそう叫ぶと同時に悲鳴とガードレールや街頭にぶつかる大きな音が響いた。

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「情けないですが・・・娘の成長も写真や動画でしか知る事が出来ないので、今度は行こう明日は行こう今日は行こうと思っているのですが、いざ行く時になると足が向かなくて・・・」
「誰が悪いわけじゃないですけど、先生が前に進まないと奥さんも戻らないのじゃないですか?」
分かっていた。
誰が悪いわけじゃないと、オレとハニに関わった人たちはそういうが、妻を守る事が出来なかった自分に責任はある。
それも目の前で起きた事なのに、このオレが身体が動かなかったとは情けなくて言い分けにもならない。
目を閉じてハニを想うと、三年前の出来事でも昨日のことのように思い出される。
机の引き出しから一枚の写真を取り出すと、そこに移っているハニを指でなぞった。
何度もそうしていたのか、所々色が変わっていた。
写真のハニは恐らく臨月に近い時期なのか、大きくなったお腹に手を添えて産まれてくる我が子を待っているように幸せな笑みを浮かべていた。
三年前のあの時は、穏やかな春の陽射しが降り注ぐ明るい日だった。
産休になったハニはあの日、定期健診に病院に来た時にスンジョと待ち合わせをしていた。
病院向かい側の公演で待っているとハニからのメールがあり、夜勤明けのスンジョはハニと一緒に定期健診に行く事になっていた。
「じゃあ、お先に・・・・」
「奥さんとデートですか?鼻の下が長くなっていますよ。」
「定期健診ですよ。恐らくこのまま入院になるのじゃないかな。」
顔に表情を出さなかったスンジョも、ハニと結婚をしてからは気が付かないうちに心の中で思っている事が顔に表れるようになった。
特に結婚5年後に待ち望んでいた子供を妊娠したとハニから連絡が来てからは、誰から見てもいつも幸せそうに見えたと言われた。
「今、通用口を出たけど公園のどの辺りにいる?」
<もう終わると思って、今から公園前の横断歩道を渡る所!>
スンジョは通用口を出て左に廻ると見える公園の方を見た。
どんなに遠くにいても、ハニはスンジョの素箍を見つける事が出来る。
大きく手を振ると聞こえるはずのないハニの声が聞こえてくるのは、スンジョだけにしか分からないお互いの空気の流れだろう。
「走るなよ。お腹が大きくなっているから、前に転びやすい。」
<分かってる!分かっているけど、スンジョ君に会えると思うとスピードが速くなるの>
「じゃあ、電話を切るから・・・」
スンジョは白い歯を見せて、嬉しそうな表情を浮かべていた。
一瞬携帯を上着のポケットに入れようと、視線をハニの方から自分の上着の方に変えた時、猛スピードで走ってくる車のエンジン音が聞こえた。
「ん?」
公園近くでたまに猛スピードで走る車は見かけるが、危ないなぁとただそう思うだけで何も気にしないで顔を上げた。
公園前の道路の横断歩道の信号が緑に変わり、歩行者たちは普通に渡り始めた。
ハニはそれよりも少し遅れて横断歩道に足を出した時に、その集団の中にさっき聞こえたエンジン音の車がスンジョが見ていたハニの姿と重なった。
「ハニ!」
スンジョがそう叫ぶと同時に悲鳴とガードレールや街頭にぶつかる大きな音が響いた。

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