診療所をユシムに譲る・・・
私の願いをスンジョ君は忘れていなかった。
田舎の診療所はそれほど忙しいわけでもなく、治療や診察に訪れる患者は腹痛や風邪を引いた、手を切った、足腰が痛いと言う人がほとんどで、特別な治療が必要とされる人は、少し離れた所にある総合病院の受診を勧めていた。
「お母さんとスンハの見舞いに行った時に決めたよ。」
「おじさん・・・まだ僕一人では無理です。」
「大丈夫だ。ユシム一人じゃないだろ?君は亡くなったお父さんと病気をしないように育ててくれたお母さんの願いを叶えてあげた。ふたりの大切な思いがあるから、これからは診療所を君が選んだ伴侶と一緒に守っていける。」
ユシムは分かっていた。
いつかは母親を自由にさせてあげたい。
周囲の人からの酷い中傷の言葉の意味が分かってから、辛くても子供の前では笑顔でいてくれた。
再婚をしても正式な妻にはならず、自分が決断をしなかったらきっとずっとイム姓のままだったかもしれない。
「分かりました。まだ未熟かもしれませんが、今までおじさんに教えてもらった事、お母さんが僕に注いでくれた愛情を大切に受け継ぐ僕の子供に伝えて行きます。」
華奢で弱そうに見えるユシムも、家族を持つようになってからひとまわり大きくなったような気がした。
身長もスンジョより少し低いくらいで、ハニがスンジョとスウォンが似ていたと言っていたからではないが、何も知らない人はユシムはスンジョの息子と思うだろう。
「いつ・・いつここを出て行ってしまうのですか?」
「スンリがパラン高校に通っているし、スンハが出産したばかりだから早いうちにソウルに行くよ。」
スンジョは血の繋がらないユシムと、自分の子供のスンハとスンリと分け隔てなく育ててくれた。
子供たち三人は地元の高校ではなく、自分とハニが通っていたパラン高校に通わせてくれ、ユシムもスンハもパラン大学に進学した。
何も強制をした事はなかったが、スンジョが常に三人の子供たちに伝えたのは『相手を思いやる事、だからと言って思いやりすぎるな』と教えていた。
決して厳しくなく、子供たちの考えを尊重してくれても、子供たちは両親のような大人を理想としていた。
「花弁が舞う季節だ・・・」
ユシムが診察室の窓から見える春の花を咲かせる気を見て呟いた。
この季節の頃はユシムにとっては、実の父親を目の前で亡くした頃で、自分も辛いのに母親を心配して幼いながらも困らせないようにしていた。
「花弁が舞う頃の季節は、昔は嫌いだった。でも、花弁が舞う様子はお母さんの笑顔に似ている。」
「そうだな・・おじさんも、お母さんと出会った時は花弁が舞っている頃だったから、花弁が舞うとお母さんの笑顔を思うよ。」
小さくてひ弱そうだったユシムも家族を持つようになり、彼を守って亡くなったスウォンがもし生きていたらこんな風に会話をしたのだろう。
「お母さんをこの先も幸せにしてください。」
「約束するよ。」
「そして・・・・ありがとうございました、お父さん。」
ユシムはスンジョに初めて『お父さん』と呼んだ。
血の繋がりはなくても、そんな事は関係ないと言っていたグミが気に入っていたユシムは、グミの思いもしっかりと受け継いでいた。

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私の願いをスンジョ君は忘れていなかった。
田舎の診療所はそれほど忙しいわけでもなく、治療や診察に訪れる患者は腹痛や風邪を引いた、手を切った、足腰が痛いと言う人がほとんどで、特別な治療が必要とされる人は、少し離れた所にある総合病院の受診を勧めていた。
「お母さんとスンハの見舞いに行った時に決めたよ。」
「おじさん・・・まだ僕一人では無理です。」
「大丈夫だ。ユシム一人じゃないだろ?君は亡くなったお父さんと病気をしないように育ててくれたお母さんの願いを叶えてあげた。ふたりの大切な思いがあるから、これからは診療所を君が選んだ伴侶と一緒に守っていける。」
ユシムは分かっていた。
いつかは母親を自由にさせてあげたい。
周囲の人からの酷い中傷の言葉の意味が分かってから、辛くても子供の前では笑顔でいてくれた。
再婚をしても正式な妻にはならず、自分が決断をしなかったらきっとずっとイム姓のままだったかもしれない。
「分かりました。まだ未熟かもしれませんが、今までおじさんに教えてもらった事、お母さんが僕に注いでくれた愛情を大切に受け継ぐ僕の子供に伝えて行きます。」
華奢で弱そうに見えるユシムも、家族を持つようになってからひとまわり大きくなったような気がした。
身長もスンジョより少し低いくらいで、ハニがスンジョとスウォンが似ていたと言っていたからではないが、何も知らない人はユシムはスンジョの息子と思うだろう。
「いつ・・いつここを出て行ってしまうのですか?」
「スンリがパラン高校に通っているし、スンハが出産したばかりだから早いうちにソウルに行くよ。」
スンジョは血の繋がらないユシムと、自分の子供のスンハとスンリと分け隔てなく育ててくれた。
子供たち三人は地元の高校ではなく、自分とハニが通っていたパラン高校に通わせてくれ、ユシムもスンハもパラン大学に進学した。
何も強制をした事はなかったが、スンジョが常に三人の子供たちに伝えたのは『相手を思いやる事、だからと言って思いやりすぎるな』と教えていた。
決して厳しくなく、子供たちの考えを尊重してくれても、子供たちは両親のような大人を理想としていた。
「花弁が舞う季節だ・・・」
ユシムが診察室の窓から見える春の花を咲かせる気を見て呟いた。
この季節の頃はユシムにとっては、実の父親を目の前で亡くした頃で、自分も辛いのに母親を心配して幼いながらも困らせないようにしていた。
「花弁が舞う頃の季節は、昔は嫌いだった。でも、花弁が舞う様子はお母さんの笑顔に似ている。」
「そうだな・・おじさんも、お母さんと出会った時は花弁が舞っている頃だったから、花弁が舞うとお母さんの笑顔を思うよ。」
小さくてひ弱そうだったユシムも家族を持つようになり、彼を守って亡くなったスウォンがもし生きていたらこんな風に会話をしたのだろう。
「お母さんをこの先も幸せにしてください。」
「約束するよ。」
「そして・・・・ありがとうございました、お父さん。」
ユシムはスンジョに初めて『お父さん』と呼んだ。
血の繋がりはなくても、そんな事は関係ないと言っていたグミが気に入っていたユシムは、グミの思いもしっかりと受け継いでいた。

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