ユン・ハニさんは、自分の荷物を片付けると部屋に備え付けのポットで湯を沸かしてお茶を淹れてくれた。
ポットに水を入れ、湯を沸かしお茶を入れる手際はとてもよく、入ったお茶は香りを損なわなく熱くなくすぐに飲めるが体の芯まで温まった。
彼女は、別に不通に淹れただけだと言ったけど心が籠っていればそれがその日に伝わるとだけ言った。
「ね・・・あなた、名前が同じよしみで聞くけど・・・・家出をして来たの?」
「どうして・・・・」
「顔に出ているわよ。家を出て誰もいない所に行こう・・・そうでしょ。」
ユン・ハニの瞳は黒曜石のように真っ黒でキラキラと輝いていた。
「高校生?」
「21歳です。」
「若く見えるね。私は24歳、全羅南道出身で家族はいなくて天涯孤独。大学は出ていないけど、ソウルに出て仕事をしようと思っているの。」
家族もいない天涯孤独なユン・ハニは、そんな風に見えないくらいに明るく声が弾んでいた。
まるで彼女の中には、天涯孤独は生きて行くには左程必要じゃないような感じに見えた。
「同じ名前同士、仲良くなろうとは言わないけど、悩みがあるのなら話してみたら。ここにいる間だけは友達よ。」
「妊娠しているの・・・・」
「やっぱり。」
ハニは顔を挙げてユン・ハニを見た。
さっきとは違い、悲しそうな眼をしていた。
「産めない子供・・・だよね。分かるよ、私もそうだったから。」
「ユン・ハニさんも?」
「両親が早くに亡くなって、親戚の家で育ったの。親戚と言っても血縁関係があるのかさえ分からないくらいに遠縁だけどね。そこの息子とお互いに好きになって妊娠した。一人息子で大切に育てたのにって・・・その息子の両親に怒られて、子供を堕ろせって言われてさ・・・」
「堕ろしたの?」
ユン・ハニは首を横に振った。
「産んだよ。産んだけど、彼と子供と私で旅行に行ったその帰り道に事故で二人とも亡くなったのに私だけが生き残った。その旅行の時に使った宿がここ・・・息子と孫が死んで、厄介者の私だけが生き残って、親せきの家にもいられないからそれならソウルに出て仕事をしよう・・・そう思って出て行く前に思い出の場所に来たの。」
ユン・ハニが見せてくれた一枚の写真。
優しそうな旦那様と可愛い赤ちゃんと、幸せそうなユン・ハニの家族写真。
それは、最初で最後の旅行に来た宿の庭で写した写真。
「この部屋で、子供と彼と三人で寝た夜が懐かしくてね。私だけが生き残って彼の家に帰って…彼の両親は私を責めたい気持ちもあったと思う。でも、息子を勘当したばかりに事故に遭ったからと言って逆に気を使わせて・・・それが一番つらかった・・・あんたもその子を産むかどうか迷っているのなら、せっかく授かった命だから産んであげて。産まれておっぱいを飲ませた時に、つらい事もみんな忘れられるから。」
ユン・ハニは、妊娠した相手の事を何も聞かなかった。
聞かなかったけど、彼女の明るさに私はスンジョ君の事を忘れて一人で子供を産んで育てようと決めた。
ソウルに戻って、ちゃんとパパに話して妊娠の事はスンジョ君には言わないであの家を出て、パパにだけ住むところを教えてそれ以外の人には秘密にして暮らそうと思っていた。
「この指輪ね・・・このお腹の子の父親にもらったの。安物だけど、私の大切な物・・・・」
心労で食事をとっていなかったから指は細くなっていた。
つわりも始まって食べなかったのもある。
足湯に浸かっている時にスルリと抜けて湯の中に落ちた。
「私が取ってあげる。」
着ている物が濡れるのに、彼女は湯の中にもぐって探してくれた。
「着替えを取って来るね。」
濡れた服で足湯小屋から出れば、外の冷気で体が冷えてしまうと思って、部屋まで着替えを取りに行こうと小屋を出た。
その小屋の陰で一人の若い男性がしゃがんでタバコを吸いながら、電話の向こうの相手と言い争っていた。
何を言っていたのか分からなかった。
喧嘩をしているのなら、その人の話を聞いてはいけないと思ったから。
「分かったよ!!」
怒鳴るようにして煙草を茂みの方に投げたのが見えた。
「危ないなぁ・・・」
そう思ったけど、あの時まさかあんな事になるとは思わなかった。

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ポットに水を入れ、湯を沸かしお茶を入れる手際はとてもよく、入ったお茶は香りを損なわなく熱くなくすぐに飲めるが体の芯まで温まった。
彼女は、別に不通に淹れただけだと言ったけど心が籠っていればそれがその日に伝わるとだけ言った。
「ね・・・あなた、名前が同じよしみで聞くけど・・・・家出をして来たの?」
「どうして・・・・」
「顔に出ているわよ。家を出て誰もいない所に行こう・・・そうでしょ。」
ユン・ハニの瞳は黒曜石のように真っ黒でキラキラと輝いていた。
「高校生?」
「21歳です。」
「若く見えるね。私は24歳、全羅南道出身で家族はいなくて天涯孤独。大学は出ていないけど、ソウルに出て仕事をしようと思っているの。」
家族もいない天涯孤独なユン・ハニは、そんな風に見えないくらいに明るく声が弾んでいた。
まるで彼女の中には、天涯孤独は生きて行くには左程必要じゃないような感じに見えた。
「同じ名前同士、仲良くなろうとは言わないけど、悩みがあるのなら話してみたら。ここにいる間だけは友達よ。」
「妊娠しているの・・・・」
「やっぱり。」
ハニは顔を挙げてユン・ハニを見た。
さっきとは違い、悲しそうな眼をしていた。
「産めない子供・・・だよね。分かるよ、私もそうだったから。」
「ユン・ハニさんも?」
「両親が早くに亡くなって、親戚の家で育ったの。親戚と言っても血縁関係があるのかさえ分からないくらいに遠縁だけどね。そこの息子とお互いに好きになって妊娠した。一人息子で大切に育てたのにって・・・その息子の両親に怒られて、子供を堕ろせって言われてさ・・・」
「堕ろしたの?」
ユン・ハニは首を横に振った。
「産んだよ。産んだけど、彼と子供と私で旅行に行ったその帰り道に事故で二人とも亡くなったのに私だけが生き残った。その旅行の時に使った宿がここ・・・息子と孫が死んで、厄介者の私だけが生き残って、親せきの家にもいられないからそれならソウルに出て仕事をしよう・・・そう思って出て行く前に思い出の場所に来たの。」
ユン・ハニが見せてくれた一枚の写真。
優しそうな旦那様と可愛い赤ちゃんと、幸せそうなユン・ハニの家族写真。
それは、最初で最後の旅行に来た宿の庭で写した写真。
「この部屋で、子供と彼と三人で寝た夜が懐かしくてね。私だけが生き残って彼の家に帰って…彼の両親は私を責めたい気持ちもあったと思う。でも、息子を勘当したばかりに事故に遭ったからと言って逆に気を使わせて・・・それが一番つらかった・・・あんたもその子を産むかどうか迷っているのなら、せっかく授かった命だから産んであげて。産まれておっぱいを飲ませた時に、つらい事もみんな忘れられるから。」
ユン・ハニは、妊娠した相手の事を何も聞かなかった。
聞かなかったけど、彼女の明るさに私はスンジョ君の事を忘れて一人で子供を産んで育てようと決めた。
ソウルに戻って、ちゃんとパパに話して妊娠の事はスンジョ君には言わないであの家を出て、パパにだけ住むところを教えてそれ以外の人には秘密にして暮らそうと思っていた。
「この指輪ね・・・このお腹の子の父親にもらったの。安物だけど、私の大切な物・・・・」
心労で食事をとっていなかったから指は細くなっていた。
つわりも始まって食べなかったのもある。
足湯に浸かっている時にスルリと抜けて湯の中に落ちた。
「私が取ってあげる。」
着ている物が濡れるのに、彼女は湯の中にもぐって探してくれた。
「着替えを取って来るね。」
濡れた服で足湯小屋から出れば、外の冷気で体が冷えてしまうと思って、部屋まで着替えを取りに行こうと小屋を出た。
その小屋の陰で一人の若い男性がしゃがんでタバコを吸いながら、電話の向こうの相手と言い争っていた。
何を言っていたのか分からなかった。
喧嘩をしているのなら、その人の話を聞いてはいけないと思ったから。
「分かったよ!!」
怒鳴るようにして煙草を茂みの方に投げたのが見えた。
「危ないなぁ・・・」
そう思ったけど、あの時まさかあんな事になるとは思わなかった。

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