ハニとグォンの宿を出てから随分といろいろな事があった。
あの頃はこうして一人でここに戻って来る事はないと思っていたし、ハニがずっと想い続けていたあの人に会うとは思ってもいなかった。
自分を捨てた両親と会う事が出来て誤解は解け、初めて対面した兄弟やイギリスの親類たち。
オレにとってたった数年の事が何十年もの時間のような気がした。
枕元に置いた携帯を取り、ここに戻って来る前に行ったピクニックの写真を見た。
草花を取って一つ一つに何か話しかけていた可愛いスンハを思いだし、それを見ていたハニの笑顔と抱かれて穏やかな顔で眠っているビクトル。
済州島からここに来るまでたった一日の事なのに、もうハニや子供たちに会いたくて仕方がない。
今回の滞在は4日間。
片道一日かけているから、来週の今頃はハニと子供たちと一緒にリビングで寛いでいるだろう。
明日、グォンにキョンエ園に送ってもらったら、まず園長に会う事を決めていた。
園長に会ったら両親と再会した事や、兄弟の事を話し、全ての権利を放棄してこの国でハニと子供たちと過ごすことを決めた事を言う。
ただ、園長にはもし今回の話し合いの結果、何かあった場合ハニをペク・スンジョに託すことは言わない。
それは園長とは関係の無い事で、スンジョに自分の気持ちを伝えればそれでいい。
いくら育ての母親として思っていても、そんな事を園長に話したらここに来る事を拒否されることは判っていた。
「ダニエル・・・ダニエル・・・起きてるか?」
「グォン・・どうかしたのか?」
「久しぶりに飲もうと思って・・・ソンナがつまみを作ってくれたよ。」
ガタンガタンと音を立てて引き戸を開けると、グォンが盆に酒とつまみを持って入って来た。
やんちゃだった高校時代、よくそんながソンモおばさんに教えてもらった料理の失敗を持って来ては、大人たちの部屋から盗んで来た酒を飲んで、園長に見つかって二人は叱られた。
高校を卒業してからグォンは麓に降りて、宿屋に住み込むようになってからは週末に会っていたが、さすがに住み込みの見習だから酒を酌み交わしたりしなかった。
「おっ!お前、携帯を持っているのか?」
「ん・・まぁ、仕事で使うから・・」
「済州島に行って直ぐに両親が見つかって、イギリスの財閥の御曹司だったんだってな。」
「御曹司じゃない。権利放棄したから。」
「もったいない・・・イギリスの財閥御曹司として、一生遊んで暮せたろうに・・」
「30年もそんな生活をしていないのに肩が凝るし、こうして安い酒を飲んで親友の女房に作ってもらったつまみを食っている方が似合っているよ。」
いくら親が財閥の人間でも、貧しい孤児院で過ごした生活は、どんなに努力したって沁みついた習慣は簡単に変えられない。
「キョンエ園のペク先生さ・・・・ヤバイんだ。」
「ヤバいって?」
「あの人、いい人過ぎて狙われている。オリエントコーポレーションの令嬢で元妻・・・離婚してから急に人が変わったように良い人になってさ、立ち退きを強制しなくなったんだ。それならそれでいいけど、立ち退きのために雇ったチンピラの仕事が無くなってさ・・・逆恨みしているんだ。ペク先生と離婚しなければ、オリエントコーポレーションの社員と付き合ったりしないし、その人との子供も産まれなかったって。女は母親になると、子供の為に防御に回るって言うか・・・・」
仕事が無くなったからってあの人の責任じゃない。
あの人はハニへ心があるのに、結婚したから続かなかっただけだ。
オレは、あの人をハニの元にちゃんと向かわせる。
オレにはハニの本当の笑顔を出す事が出来ない。
ハニは笑顔をオレに向けていても、目の奥は一度も笑った事はない。
「もう、限界だ・・・」
「まだそんなに飲んでいないだろう?」
「旅疲れだ・・・オレは寝るから、お前は飲み終わったらソンナの所に戻れよ。妊娠中の妻が一人で子供の世話をして旦那が酒を飲んでいたらいかんだろ。」
「あのダニエルが、父親になったら良い人になったな。」
「子供の為ならオレはいい人にだって簡単になるよ。」
ハニと子供の為ならオレは、何だって出来る気がする。

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あの頃はこうして一人でここに戻って来る事はないと思っていたし、ハニがずっと想い続けていたあの人に会うとは思ってもいなかった。
自分を捨てた両親と会う事が出来て誤解は解け、初めて対面した兄弟やイギリスの親類たち。
オレにとってたった数年の事が何十年もの時間のような気がした。
枕元に置いた携帯を取り、ここに戻って来る前に行ったピクニックの写真を見た。
草花を取って一つ一つに何か話しかけていた可愛いスンハを思いだし、それを見ていたハニの笑顔と抱かれて穏やかな顔で眠っているビクトル。
済州島からここに来るまでたった一日の事なのに、もうハニや子供たちに会いたくて仕方がない。
今回の滞在は4日間。
片道一日かけているから、来週の今頃はハニと子供たちと一緒にリビングで寛いでいるだろう。
明日、グォンにキョンエ園に送ってもらったら、まず園長に会う事を決めていた。
園長に会ったら両親と再会した事や、兄弟の事を話し、全ての権利を放棄してこの国でハニと子供たちと過ごすことを決めた事を言う。
ただ、園長にはもし今回の話し合いの結果、何かあった場合ハニをペク・スンジョに託すことは言わない。
それは園長とは関係の無い事で、スンジョに自分の気持ちを伝えればそれでいい。
いくら育ての母親として思っていても、そんな事を園長に話したらここに来る事を拒否されることは判っていた。
「ダニエル・・・ダニエル・・・起きてるか?」
「グォン・・どうかしたのか?」
「久しぶりに飲もうと思って・・・ソンナがつまみを作ってくれたよ。」
ガタンガタンと音を立てて引き戸を開けると、グォンが盆に酒とつまみを持って入って来た。
やんちゃだった高校時代、よくそんながソンモおばさんに教えてもらった料理の失敗を持って来ては、大人たちの部屋から盗んで来た酒を飲んで、園長に見つかって二人は叱られた。
高校を卒業してからグォンは麓に降りて、宿屋に住み込むようになってからは週末に会っていたが、さすがに住み込みの見習だから酒を酌み交わしたりしなかった。
「おっ!お前、携帯を持っているのか?」
「ん・・まぁ、仕事で使うから・・」
「済州島に行って直ぐに両親が見つかって、イギリスの財閥の御曹司だったんだってな。」
「御曹司じゃない。権利放棄したから。」
「もったいない・・・イギリスの財閥御曹司として、一生遊んで暮せたろうに・・」
「30年もそんな生活をしていないのに肩が凝るし、こうして安い酒を飲んで親友の女房に作ってもらったつまみを食っている方が似合っているよ。」
いくら親が財閥の人間でも、貧しい孤児院で過ごした生活は、どんなに努力したって沁みついた習慣は簡単に変えられない。
「キョンエ園のペク先生さ・・・・ヤバイんだ。」
「ヤバいって?」
「あの人、いい人過ぎて狙われている。オリエントコーポレーションの令嬢で元妻・・・離婚してから急に人が変わったように良い人になってさ、立ち退きを強制しなくなったんだ。それならそれでいいけど、立ち退きのために雇ったチンピラの仕事が無くなってさ・・・逆恨みしているんだ。ペク先生と離婚しなければ、オリエントコーポレーションの社員と付き合ったりしないし、その人との子供も産まれなかったって。女は母親になると、子供の為に防御に回るって言うか・・・・」
仕事が無くなったからってあの人の責任じゃない。
あの人はハニへ心があるのに、結婚したから続かなかっただけだ。
オレは、あの人をハニの元にちゃんと向かわせる。
オレにはハニの本当の笑顔を出す事が出来ない。
ハニは笑顔をオレに向けていても、目の奥は一度も笑った事はない。
「もう、限界だ・・・」
「まだそんなに飲んでいないだろう?」
「旅疲れだ・・・オレは寝るから、お前は飲み終わったらソンナの所に戻れよ。妊娠中の妻が一人で子供の世話をして旦那が酒を飲んでいたらいかんだろ。」
「あのダニエルが、父親になったら良い人になったな。」
「子供の為ならオレはいい人にだって簡単になるよ。」
ハニと子供の為ならオレは、何だって出来る気がする。

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