「まだ私には無理です。」
「誰でも、そう言われればそう思うだろう。決して世子が未熟という理由で反対などしない。誰でも最初は不慣れで戸惑うこともある。そのために宰相がいるのだし、宮中には優秀な臣下が沢山いるのだから学ぶことも多い。むしろ、宮中で生まれ育った父より、民の家で生まれて幼い頃を過ごした世子の方が王として必要な知識を身に着けている。」
「まだ世子として、父上のそばにいたいです。自分には責任が・・・・」

陣痛に苦しむ王妃である母の様子を伝えに来たスンリに譲位することを告げたのは理由があった。
自分は年の離れた弟が一人しかいなかった。
ペク家もファン家も無欲で、権力に無欲な考えだった。
周囲の思惑が当人とは違う考えが動いていて、皇位継承者として不安など無いように見せるのは精神的に負担は誰にも言えない。
弟が一人しかいなかったから、大きな派閥争いなど起きなかったが、世子には弟が四人いる。
みな兄思いの良い子供たちだが、思惑のある者たちに利用されるようになってはいけない。

スンリは父の話を黙って聞いていた。
いずれは王になることはほぼ決まっているが、父や先王のように民たちから尊敬される人間になっていないと思っている。

「もう一つの理由は・・・・どちらかというともう一つの理由の方が大きいかもしれない。」
そういった時の父の顔は、王としての父の顔ではなかった。
「スンリが生まれる前に、ハニが行方不明になって不安な日々を過ごした。不安だったのは羽仁の方かもしれない。」
自分の名前を言い、王妃ではなくハニと言った父の表情は王の顔ではなかった。
疲れたようでもあり、新しい目標に向かって歩み出そうとしている表情だった。


砂浜で走る幼い子供たち。
女の子は砂浜に落ちている貝殻を見つけて太陽に透かして見て、男の子は弓を射るような素振りをして楽しんでいた。
その二人を見ている男性と女性は、身なりは平民のようだが高貴な雰囲気が漂っていた。
少し離れた所から四人を見守るように立っている女官が二人と護衛が三人。
女性は妻で男性は夫だと思われた。

「ここにきて四年・・・スヤンとミアは生まれてからずっとここで生活していたから、ポン家の人たち以外私たちの素性を知らないから・・・・・」
「それでいいんだ。島の子供として育つ子でいい。ハニが偶然にポン・ジュングという人と偶然に出会って、記憶を無くして過ごして、偶然に記憶が戻りまた私と再会することができた。スヤンとミアも偶然に出会った人たちから色々なことを学んで成長してほしい。」
二人の幼い子供たちが、裸足で砂浜を走り両親の方に近づいた。

「父様、母様・・・お兄様とお姉さまに会ってみたいです!」
「もうすぐ会えるよ。王様と王妃様と静養に来てくださるから。」
「本当?世子様にも会いたい!」
「世子様にはいつか会えるよ。」
宮殿で育っていない二人には、王様が兄であることは理解できていても、まだ一度も会ったことがない不思議な存在だ。
普通の民のように、雲の上の存在の人が自分たちの兄であることが信じられなく、いつか会いたい人でもあった。

離れていても偶然に出会うことができるのは、その人たちが持っている運命でもあるかもしれない。
邂逅・・・・偶然に出会うこと。
それは人と出会うことだけではないのかもしれない。




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