初めての宴
身分の高い人との顔も知らないままの婚儀
両班の娘として自由に生きて来たのに、これからは何もかも規則で縛られた生活
私にとって世子嬪の意味などどうでもいい
未婚の両班の娘の憧れでもある世子の妃になるより、目の前の料理を食べたい
昨日の夜より食べる物は今日の日に差し障るからと制限されていて、良き日なのにお腹が空いて我慢できない

「お腹が空いた。」
小さな声で呟いたはずだった。
だが、一瞬静まり返った時に、その呟いた言葉が隣に座る世子に聞こえた。
「ほら、口を開けて・・・」
少しだけ声の方を見ると、世子が箸に食べやすそうな料理を挟んで差し出していた。
初めて見る世子の顔は、あまりにも美しく目が離せなかった。

「ほら、 臣下に見えない様にこっちを向いて口を開けろ。」
「えっ!」
挟んだ料理を婚儀の最中に世子嬪に食べさせるのは前代未聞だ。

『早く』と急かす瞳に応えるように口を開けると、側にいた女官が息を呑むのが伝わった。
それと同時に、宴に参列している人たちの視線がふたりに注がれたが、空腹には勝てなかった。

決まりではないが、世子嬪が人前で夫になったばかりの世子に食べさせて貰う事は考えられなかった。

その様子に気づいた内官や尚宮初め女官が慌てたが、臣下達は思わず『おー』と声を漏らしていた。
実家から連れてきた乳母なのか、世子嬪を嗜めていた。

「嬪宮、私にも食べさせてくれないか?」
それは世子が、実家から連れてきた乳母に嗜めてられ悲しそうにした世子嬪を庇っての言葉だった。


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