キョンは正面の門から、これから過ごすことになる平和寺に向かった。
山門までは陛下に仕えている内官と女官が付いていたが、山門からは平和寺の僧侶と交代をする。
母親である恵景妃は、取り乱すことはなかったがもう二度と自分の腕で抱きしめることはできないことに、立っていられないほどに泣いていた。

「恵景妃・・・」
ハニは、そう声をかけることしかできなかった。
自分も十年ほど前に、王宮を追われた時に、スンハと暫くの間離れることになった時に、二度と会えなくなるかもしれないと考えたこともあった。
「部屋にお連れするように・・・」
尚膳が恵景妃付きの女官に指示を出すと、両脇から支えられるように見送っていた場所から離れていった。

「あの頃を思い出して、私も悲しくなるわ・・・・」
「妃は大丈夫だ。王宮を出るだけで会えないわけでもない。むしろ、キョンの知られたくないことを人に知られて広がることに神経を尖らせていたのだから。天気も穏やかだし、久しぶりに庭を散歩しないか?」
この数日は、キョンの出家のために身重のハニは忙しくしていた。
天候が穏やかで体調が良ければ、気晴らしに短い散歩をしても良いと御医から許可が出ていた。

スンジョは尚膳や尚宮、女官たちを気にしながら、少し離れて歩いているハニの手をそっと握った。
「スンの本当の名前はスンリなの?」
「そうハニにあの時に伝えたはずだけど、記憶をなくしていた時にスンが生まれたのだから仕方がない。絶対に謀反は防げると信じていたから、生まれてくる子供に『勝利』としたかった。スンリには随分前に本当の名前を伝えたが、スンと呼ばれていることに慣れているから、そのままにすることにした。」

伝えた名前とは違うが、ハニの頭の中にはスンジョの伝えた名前が残っていた。
しかし、それはスンジョが伝えた生まれる子供の名前なのか、それともスンジョの名前が脳裏に残っていたのか、それは誰にもわからないことだった。



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