無邪気に片思いをしていた人を追っていた時は、せつなくてもそれはそれで楽しい思い出だった。
むしろ一番辛かったのは、不慮の災難で同居生活をしていたあの時期。
身体は手を伸ばせば近い所にいるのに、心は近づきそうで近づくと遠くなっていた。
それでもその体の距離が近いことだけで満足しようとしていた。
大好きだった人が、私が勝手にライバルだと思っていた女性と見合いをして結婚することを知った時は、人生で最大のピンチを通り越してどん底だった。

片思いから始まり人生のどん底の時間も、もう誰も好きになれないと思い生涯独身でいようと思って、ただひたすら憧れていた看護師として過ごした時間はとても長く、時にはあの片思いは幻だったのかもしれないとさえ感じた。

何かの縁でとよく言われるが、同姓同名の医師の元で働いてスンジョ君と再会し、隣の部屋の住人となって結婚することになった時までの数ヶ月は、もしかしたら夢だったのではないかと今でも思う。
夢ではないことは今目の前で毎日のルーティンのように、私の淹れたコーヒーを新聞を読みながら飲んでいるスンジョ君がいること。
カップを置いたら、後ろから抱きしめて首筋にキスをしたくなる衝動を抑えきれない。

「お前も飽きないな・・・・」
「うん、何十年経っても飽きないよ。でも・・よく苦いコーヒーをそんな風に飲めるね。」
背後から回されたハニの腕を手慣れた感じで解くと、スンジョは体の向きを変えてハニを膝の上に乗せた。
「コーヒーは香りで飲むんだ。味覚も確かに大切だが、お前みたいに砂糖の塊のように甘く、ミルクの味しかしない物はコーヒーとは言わない。」
首筋にされたキスのお返しに、いつもスンジョ君は私の唇にキスを返してくれる。
「お前の唇は当分の取り過ぎだ。もう少し砂糖を控えろ。」
私の当分の取りすぎよりも、スンジョ君の優しい声の方が甘すぎるよ。

「じゃ・・・もう行くよ。あまり遅くなるとスヨンが煩いからな。ハニもスンハとスンリを保育園に預ける時間が遅くなる。」
スンジョとよく似た双子の娘と息子は、両親が毎朝同じことをしているのを、楽しみにしているのかかわいらしい顔で眺めていた。
「ママはパパが好きね。」
「好きだからスンハとスンリが産まれたの。」
「ふぅ~ん。」
そう言うといつも娘のスンハは、飾られている母と父の結婚式の写真を眺めてうれしそうに笑う。
息子のスンリは幼くても、スンジョのコピーのように表情を変えずに少し皮肉って母に言う。
「どっちかと言うと・・・パパの方がママを好きに見えるけど。」

そう見えるかもしれないくらいに、スンジョはカメラの方を見ないでハニの方を見た瞬間に写された写真だった。
その瞬間を写したのは、もちろんこの二人の結婚を一番喜んだファン・グミだった。


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