パパに伝えるために、今日は自分の部屋からではなくて、スンジョ君の部屋の玄関から出た。
スーパーでおばさんと会ってから、現実ではない所にいるようであっと言う間にパパのお店に向かう事になった。
少しずつ距離が近づいて行くと、今の状況が現実だと思い始めた。

「間に合ったな。」
車を駐車場に停めて降りると、スンジョは少し緊張したような表情になった。
助手席のドアが開くと、降りようとするハニに手を差し伸べた。
さり気ない行動にハニは一瞬驚いたが、緊張をしているがいつもと変わらないスンジョの手を取った。
その手は大きくて温かくて、幸せだと言う気持ちよりも何か大きなものが伝わって来た。
「行こうか。」
「うん。」

報われない片想いに苦しんでいたのはいつだっただろうか。
そんな風に思い、この数か月の出来事や、スンジョの事を忘れようとして、ただひたすら看護学校で看護師になるために勉学に励んだ。
勉学に励んでも現実は厳しくて、勤務先がなかなか決まらず、大きな病院を諦め小さな病院を選んだ。

その選んだ病院が『まったりクリニック』で、何の運命なのか院長の名前が『ペク・スンジョ』。
戸惑いはあったが、年齢も顔も体格も全く違う別人だと、片想いの記憶も忘れる事が出来た。
老医師ペク・スンジョは、来院する患者は決してお世辞でも多くはなくても、利益より来院した患者と向き合っている事が一番だと言う、少しどころかかなり変人な様子を見て、やはりこの名前の人は他の人と違う考えを持っているのだと思う時もあった。

「いらっしゃい!」
店のドアが開いて迎えたジュングの声に、ハニはこれから父に伝える言葉を緊張しながら考えていた。
「ペク・スンジョ・・・・それにハニ、二人一緒に・・・手まで繋いで・・・・」
「ジュング・・パパを呼んでくれる。」
ジュングはハニの恥ずかしそうな表情と、繋いでいる手を見て何かに気が付いたように表情を変えた。

「まだ店は始まらないけど、その角で座って待ってろ今呼んで来るから。」
チラリとスンジョを見て、ジュングは厨房の奥にいるギドンを呼びに入って行った。


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