早朝の静かな時間にキッチンから聞こえる規則正しい包丁の音や、水道から流れている水の音は物心から自然の音のように耳にしていた。
結婚をして家を出てからはこんなに清々しい気持ちで聞けるようになったのは数か月前からだ。
数か月前の早朝に聞いたキッチンからの音は、今聞こえるような音とは違ってぎこちない音だった。
そっと気が付かないように聞いていたあの頃は、何か明るい光が見えて来たように思えた。
ほんの小さな物音に気が付いたグミは、包丁の動きを止めて振り向いた。
「あら・・もう起きたの?まだ朝食の用意は出来ていないわよ。」
「早く病院に行きたいから、向こうで食べようと思っている。」
「そう・・・コーヒーを淹れるわね。」
お袋の淹れたコーヒーは、決して不味くはないが微妙にオレが飲みたいと思う味と香りとは違った。
もうあのコーヒーを飲む事はないが、懐かしい思い出として心の中にしまっておこう。
「うまい・・・・」
「あら珍しい・・あなたの口からそんな言葉を聞いたのは初めてよ。」
「昨日の夜はよく眠れたからかもしれない。」
「ヘラが眠れたのね・・・よかった・・・」
オレが眠れた事で、ヘラも眠れたとお袋が思うのは、オレたち夫婦の事を口には出さなくても気にしていたからなのだろう。
「何?」
コーヒーを飲んでいるスンジョの向かい側にグミは座り、ニコニコと笑いながら清々しい息子の顔を眺めていた。
「何かに吹っ切れたみたいね。」
「ヘラがハニと話をした事で、心の中の蟠りが解けたからかもしれない。」
「それもあるけど・・・・あの日・・何があったの?」
「あの日って?」
「あなたの結婚式の前の日でハニちゃん達がこの家を出て行く前の日よ・・・二人だけで長く話をしていたじゃない・・・・・」
「何もないよ、話をしていただけだ。」
お袋にそう話しても納得いかないだろう。
納得がいかなくても、話をしていたのは事実だ・・・・話した内容は二人だけの大切な思い出として誰にも話さないが。
「もう行くよ。」
最後のひと口を飲み干すとスンジョは立ち上がった。
ジャケットを持って玄関に向かいかけようとした時に、マグカップを片付けようとしていたグミの方に振り向いた。
「ハニはここに住んでいた数年で、お袋の考えを受け継いで本当の娘になったよ。」
それがどんな意味を含んでいるのかグミは知らないが、その言葉に笑顔で返した。

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結婚をして家を出てからはこんなに清々しい気持ちで聞けるようになったのは数か月前からだ。
数か月前の早朝に聞いたキッチンからの音は、今聞こえるような音とは違ってぎこちない音だった。
そっと気が付かないように聞いていたあの頃は、何か明るい光が見えて来たように思えた。
ほんの小さな物音に気が付いたグミは、包丁の動きを止めて振り向いた。
「あら・・もう起きたの?まだ朝食の用意は出来ていないわよ。」
「早く病院に行きたいから、向こうで食べようと思っている。」
「そう・・・コーヒーを淹れるわね。」
お袋の淹れたコーヒーは、決して不味くはないが微妙にオレが飲みたいと思う味と香りとは違った。
もうあのコーヒーを飲む事はないが、懐かしい思い出として心の中にしまっておこう。
「うまい・・・・」
「あら珍しい・・あなたの口からそんな言葉を聞いたのは初めてよ。」
「昨日の夜はよく眠れたからかもしれない。」
「ヘラが眠れたのね・・・よかった・・・」
オレが眠れた事で、ヘラも眠れたとお袋が思うのは、オレたち夫婦の事を口には出さなくても気にしていたからなのだろう。
「何?」
コーヒーを飲んでいるスンジョの向かい側にグミは座り、ニコニコと笑いながら清々しい息子の顔を眺めていた。
「何かに吹っ切れたみたいね。」
「ヘラがハニと話をした事で、心の中の蟠りが解けたからかもしれない。」
「それもあるけど・・・・あの日・・何があったの?」
「あの日って?」
「あなたの結婚式の前の日でハニちゃん達がこの家を出て行く前の日よ・・・二人だけで長く話をしていたじゃない・・・・・」
「何もないよ、話をしていただけだ。」
お袋にそう話しても納得いかないだろう。
納得がいかなくても、話をしていたのは事実だ・・・・話した内容は二人だけの大切な思い出として誰にも話さないが。
「もう行くよ。」
最後のひと口を飲み干すとスンジョは立ち上がった。
ジャケットを持って玄関に向かいかけようとした時に、マグカップを片付けようとしていたグミの方に振り向いた。
「ハニはここに住んでいた数年で、お袋の考えを受け継いで本当の娘になったよ。」
それがどんな意味を含んでいるのかグミは知らないが、その言葉に笑顔で返した。

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