窓の外は新緑が映える季節になっていた。
夢に見た花嫁の母として、娘の結婚の準備をしたのはまだ肌寒い時期だった。
毎日のようにハニが店を閉めた後に電話をかけて、スンハは体調の報告をしていた。

『明日は定期健診だから、おばあちゃんと病院に行ってくるね。』

小さなアパートでインスンとスンハは新婚生活を始めた。
出来るだけ親の援助を受けないで、お互いに協力し合って生活をすると自分の両親に宣言をしたインスンに改めて好きになってよかったと、結婚する前日にハニにそう言った。
インスンはテハン大病院で医師たちに就いて雑務を行い、時間が空いた時には家庭教師のアルバイトをし、スンハは大学講師の助手としてアルバイトをしていた。
苦労をしているのじゃないかと心配をする事もなく、毎日のようにかかってくる電話の向こうの声は、二人が楽しく暮らしている事が伝わってくるくらい明るい声だった。

「ハニちゃん、スンハちゃんはもうすぐ産まれる時期かい?」
「昨日の夜はまだ大丈夫だと言っていたけど・・・・」
定期健診が終わった頃に、いつも電話をかけて来る時間は過ぎていた。
クリニックにいるスンジョの方にもまだ連絡がなく気にはなっていたが、グミが付いていてくれるから心配はないと思うようにしていた。

カフェの店内は、客が帰るとスンリと二人だけで、何も話さなければ物音ひとつしなかった。
「パパが帰って来た!今日は早いね。」
スンリがそう言うとすぐにカフェのドアが開いた。
いつもはカフェのドアから入って来ないスンジョが、何か慌てた様子で息を切らしていた。
「どうしたの?」
「スンハが、定期健診に行ってそのまま入院した。」
「産まれるの?」
「みたいだ。明け方に産まれるとお袋から連絡があったから、今から家を出れば十分に間に合う。」
「荷物を用意しなきゃ・・・」
「そのままでいいから、すぐに行くぞ。」

ハニは心の中でなぜか笑いたかった。
理由を聞かれればはっきりと言えるが、今のスンジョに言わない方がいいような気がした。
「お姉ちゃん、赤ちゃんが産まれるって。スンリも一緒に行こうね。」
テーブルの上に広げていた図鑑を閉じて手に持つと、スンリの手を引いて椅子から降ろした。
どんな時もあわてないスンジョの、いつもと違う雰囲気の背中を見ながら、ハニは黙ってその後ろを付いてカフェのドアから外に出た。




人気ブログランキング