「でもね、先生の事は本当に好きだったよ。スンジョ君の事も好きという気持ちは変わらないけど、先生と一緒にいて幸せだなって思った時、一生この人の奥さんになってもいいかなって・・・どう言っていいのか分からないけど、そういう気持ちだった。」
「わかるよ。スウォンさんとハニは、共通の思いがあったのだと思う。スウォンさんもハニも、幼い時に母親を亡くして父親が一生懸命に守ってくれて大人になった。だから、自分たちがした思いを子供にさせたくない。もちろんお互いの父親も寂しい思いをさせないで育てたのは分かっているけど、子供の心の中には両親がそろっていて、そこに自分がいるという空間にあこがれている。で、結局スウォンさんは自分たち親子の方に向かってきた車をに対して、自分の体を張ってユシムを助けて命を落とした。ハニはハニで、自分の父親が再婚もしないで自分を育ててくれたのを見ていたから、オレが手を差し伸べてもその手を取らなかった。」

どうしていつもスンジョは何も話さなくても、自分の考えていることをわかるのだろう。
声に出さなくても、言葉は別としても言いたいことは間違っていない。

「でも、結局私はスンジョ君の手を掴んだ。」
「そうだな・・・ハニが年中発情期だとは思わなかったよ。」
「発情期って・・・そんな獣みたいな言葉で。あの時のあれは・・・・」
スンジョは笑っていた。
冗談で言ったことなのだと、分かってはいても言われるとついつい怒りたくなる。
「一度目はオレはソファーで寝ていたら、翌日の夜は同じ布団で寝てほしいって・・・オレの方が獣並みの発情期だ。診療所に来た最初にハニの顔を見ただけで、気持ちがよからぬ方に向いていたのは事実だ。」
「よからぬ方?」
「あぁ、ここでハニはスウォンさんと結婚生活をしていたんだ。幸せにしていたハニが、今は自分の目の前で不安そうにしている。オレが抱きしめて、大丈夫だと伝えてあげたらいいだろうか////・・・入籍をしないまま夫婦として暮らし始めたこの部屋も、正直言うと・・・オレはハニを女として満足させられるだろうかって・・・・」

「なんてことを・・・そんなことを考えていたなんて・・・」
「なにも気にしていないように見えても、オレだって普通の男で、普通に性欲だってあるさ。目の前でハニが眠っているのを、何もしないで見ているのも結構・・結構辛かったぞ。」
こんな風に自分の中にいる別の感情をお互いに話したことはなかった。
スンハを妊娠する前は、確かに不安で誰かに励ましてほしかった。
まだあの時のスンジョは、パラン大病院から派遣された医師の一人で、時期が来たら帰ってしまうけと分かっていた。
それなのに、離れたくないずっとそばにいてほしいという思いが強くて、ほとんど毎晩のようにスンジョがいた離れで夜を過ごしていた。
勇気を出してスンジョのプロポーズを受けたが、海外研修で結婚したのは帰国してスンハの事を知ってからだった。

はたから見ればスンハとスンリはそっくりで、スンハとユシムは似ていないのに、スンハはイム性のまま。
当然何も知らない人は『妻が不倫をしていることを知って、スウォンが事故に見えるように自らの命を絶った』と言っていたうわさが出ていたのかもしれない。
そのうわさ話について、ハニもスンジョも持ち出すことはしなかったし、子供たちも耳にしていたがハニが悲しむことだけはしないのが、一番噂話を忘れることにつながると思っていた。

「話はあとにしよう。」
「うん、スンジョ君が私から離れていかない限り、いつまでも話はできるよね?」
スンジョは返事をしなかったが、ハニのおでこに触れた唇で言いたいことは伝わってきた。





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