ヘラとギョンスと別れてから、そのまま家に帰ろうと思ったが、空腹でカフェのガラス越しに見えるランチを食べている人から視線を逸らせられなかった。
「どうしよう・・・お腹が空き過ぎたのか、暑さで眩暈がしそう。」
夜勤明けの日は、家に帰ってから食べないで眠る事もあるが、ほとんど眠気の方が勝ってそのままベッドに入る事が多かった。
「寄って行こうかな・・・」
空腹な気はするが、それほど食べたいわけではない。

カフェのドアを開けると、店員が応対に出た。
「いらっしゃいませ・・今満席ですが、おひとり様でしたらカウンター席が空いていますけど。」
「カウンター席で。」
カフェに一人で来ることはなかったから、カウンター席に座った事もなかった。
「ミルクティとナッツのマフィン。」
お腹が空いているはずなのに、いざ注文をしようと思うと、食欲があると思うほど空腹感はなかった。

「コールばかりで仮眠もあまりとれなかったからなのかなぁ・・・すみません・・・」
注文をしてもらった品の変更をして、せっかく一人でカフェに来た記念をおしゃれに過ごしたかったが、暑い日に温かいミルクティをとても飲める気持ちになれなかった。
「すみません、ミルクティをレモンソーダーに変更できますか?」
「変更ですね。かしこまりました。」
忙しい時間の少し前で、変更を気楽にしてくれた。

ポソポソとしたナッツのマフィンは、飲み物を飲みながら食べなければ喉につかえそう。
レモンソーダーと交互に食べていたら、炭酸と一緒ではすぐに満腹を感じた。
ゲホッ・・
勢いよく食べたからなのか、ゲップが出たが咄嗟に手を口元に持って行き他の人には気がつかれないようにごまかせた。

「欲張りすぎって、スンジョ君に言われそう・・・」
一度目のごまかしの後、二度・三度とゲップとしゃっくりが続き、とても抑えられそうになかった。
半分も食べていないナッツマフィンを残して帰るのも、もったいないと思うのは食べ物に対して『食いしん坊』とスンジョに言われるくらい、そのままにして帰れないハニ。
言うのは恥ずかしかったが、それが捨てられると思うのはもっと公開すると思い、ハニは勇気を出してテイクアウトする事にした。

ひとりでこんな風に夜勤の帰りに寄り道をしたのも初めてで、ひとりで寄り道をして帰る事が出来るのはもうないかもしれない。
もう少しフラフラとしたい気持ちもあったが、暑い日に日よけ対策もしないで歩いていると、さすがにくらくらとして来た。
「一人で楽しむのもいいけど、今度はスンジョ君とカフェに寄ったりしてデートする方が楽しいかもしれない。」
自分ひとりで何かが出来たから、次はスンジョとカフェデートをしたいと思えたのかもしれなかった。

軽い脱水症状のような、頭がフラフラとした感じでも、たくさんの旅行パンフレットを大切に抱きかかえながら、家に帰る方向のバスに乗った。
 




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