医務室に体調不良や怪我をしたと言う理由で来る人はほとんどいない。
「兄貴・・・・忙しい?」
「忙しいわけないだろう、コーヒーを飲んでいただけだ。」
「このコーヒーを淹れる人間も、テストして選んだんだ。兄貴はコーヒーの淹れ方にもこだわりがあるだろ?」
「別に、そう言うわけじゃ・・・・・」
オレのコーヒーが好きと言うのは、淹れ方や豆が理由じゃない。
ハニが淹れたコーヒーが、いつも神経を張り詰めていたオレの心に少しだけ安らぎを与えてくれたからだ。
「コーヒーにこだわっていた訳じゃない。あれはハ・・・・・いや、ところで何か用事があったのじゃないか?」
そう、コーヒーに特別にこだわっていた訳じゃない。
あれは、ハニが淹れたコーヒーがオレの口に合っただけで、ハニが淹れたコーヒーが好きだっただけだ。
「社員のチョ・ダニエルが、無事に子供が産まれて母子とも元気にしている事を伝えて欲しいと今朝あった時に言っていた。」
「別に・・・・医師として、専門外でもここで休ませて連絡を取っただけだ。オレは何もしていない。」
表情は変えていない。
大丈夫だ、ウンジョにオレの心の中を見透かされることはないから。
「ダニエルは、ハンダイにとって大事な写真だから、その家族が具合が悪くなった時は、ちゃんと他の人と変わらずに診てくれるよね。」
「当たり前だろう、オレは医者だから病気や怪我をした人を診るのが仕事だ。何が言いたいのだ?遠まわしに言わないで、ストレートに聞けばいいだろう。」
そんな言い方をウンジョにするつもりはないが、オレはこんな言い方しか出来ない。
だから、ハニを傷つけヘラも傷付けた。
誰に対して本心を言えばいいのかも判らず、冷たく突き放してはいけない人には突き放して、言わなくてもオレの行動が理解できる人には気を使って。
ヘラは、オレの行動を理解していたのか?
理解していると思っていただけじゃなかったのだろうか。
「ダニエルの妻がハニだと・・・・・・気が付いていたよね?」
「まぁ・・・パラン大でも会ったし、痩せているとはいえあの頃からハニは変わっていないから。それに、名前を聞いたら、ちゃんと応えたし・・・・だけど、ハニはオレの事には気が付いていなかったけどな。」
どんなに遠く離れていても、オレを見つけ出していたハニが、オレ以外の男を好きになって結婚するとは思ってもいなかった。
それは、それで良かったのかもしれないが、あの時のハニの顔を見ると後悔してももうどうしようもないのだと自分の奥にある思いに言い聞かせていた。
「ハニの事、諦めたの?」
「諦めたとか、諦めないじゃない。運命があるのならこれがオレの運命だったのだ。オレには結婚生活は向いていなかったと言うだけだよ。もうすぐ、アンダーソン夫人が点滴に見える。悪いが、話は今夜仕事を終えてからにしてくれないか?」
「そだね・・・・オレも仕事に戻るよ。」
医務室を出て遠ざかって行くウンジョの足音を聞きながら、スンジョはここに運ばれて来たハニの顔を思い出していた。
済州島に来た時にこの医務室との連携の話しと自分の身体を診察してもらうために訪れた総合病院で会ったハニの、妊娠によってなのだろうか少しふくよかになった姿を思い出していた。
いつも自分の名前を呼んでくれたあの声で『主人』と言った時の、ハニのあの声と顔が遠く感じた。
戻る事のない昨日ではなく、行かなければ行けない明日に、少しづつ少しづつ前に踏み出して行くんだよと、オレに言っていたような気がした。

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「兄貴・・・・忙しい?」
「忙しいわけないだろう、コーヒーを飲んでいただけだ。」
「このコーヒーを淹れる人間も、テストして選んだんだ。兄貴はコーヒーの淹れ方にもこだわりがあるだろ?」
「別に、そう言うわけじゃ・・・・・」
オレのコーヒーが好きと言うのは、淹れ方や豆が理由じゃない。
ハニが淹れたコーヒーが、いつも神経を張り詰めていたオレの心に少しだけ安らぎを与えてくれたからだ。
「コーヒーにこだわっていた訳じゃない。あれはハ・・・・・いや、ところで何か用事があったのじゃないか?」
そう、コーヒーに特別にこだわっていた訳じゃない。
あれは、ハニが淹れたコーヒーがオレの口に合っただけで、ハニが淹れたコーヒーが好きだっただけだ。
「社員のチョ・ダニエルが、無事に子供が産まれて母子とも元気にしている事を伝えて欲しいと今朝あった時に言っていた。」
「別に・・・・医師として、専門外でもここで休ませて連絡を取っただけだ。オレは何もしていない。」
表情は変えていない。
大丈夫だ、ウンジョにオレの心の中を見透かされることはないから。
「ダニエルは、ハンダイにとって大事な写真だから、その家族が具合が悪くなった時は、ちゃんと他の人と変わらずに診てくれるよね。」
「当たり前だろう、オレは医者だから病気や怪我をした人を診るのが仕事だ。何が言いたいのだ?遠まわしに言わないで、ストレートに聞けばいいだろう。」
そんな言い方をウンジョにするつもりはないが、オレはこんな言い方しか出来ない。
だから、ハニを傷つけヘラも傷付けた。
誰に対して本心を言えばいいのかも判らず、冷たく突き放してはいけない人には突き放して、言わなくてもオレの行動が理解できる人には気を使って。
ヘラは、オレの行動を理解していたのか?
理解していると思っていただけじゃなかったのだろうか。
「ダニエルの妻がハニだと・・・・・・気が付いていたよね?」
「まぁ・・・パラン大でも会ったし、痩せているとはいえあの頃からハニは変わっていないから。それに、名前を聞いたら、ちゃんと応えたし・・・・だけど、ハニはオレの事には気が付いていなかったけどな。」
どんなに遠く離れていても、オレを見つけ出していたハニが、オレ以外の男を好きになって結婚するとは思ってもいなかった。
それは、それで良かったのかもしれないが、あの時のハニの顔を見ると後悔してももうどうしようもないのだと自分の奥にある思いに言い聞かせていた。
「ハニの事、諦めたの?」
「諦めたとか、諦めないじゃない。運命があるのならこれがオレの運命だったのだ。オレには結婚生活は向いていなかったと言うだけだよ。もうすぐ、アンダーソン夫人が点滴に見える。悪いが、話は今夜仕事を終えてからにしてくれないか?」
「そだね・・・・オレも仕事に戻るよ。」
医務室を出て遠ざかって行くウンジョの足音を聞きながら、スンジョはここに運ばれて来たハニの顔を思い出していた。
済州島に来た時にこの医務室との連携の話しと自分の身体を診察してもらうために訪れた総合病院で会ったハニの、妊娠によってなのだろうか少しふくよかになった姿を思い出していた。
いつも自分の名前を呼んでくれたあの声で『主人』と言った時の、ハニのあの声と顔が遠く感じた。
戻る事のない昨日ではなく、行かなければ行けない明日に、少しづつ少しづつ前に踏み出して行くんだよと、オレに言っていたような気がした。

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