「ほら、スンハアッパがお仕事から帰って来たよ。ドアが開いたらすぐに走って行ってね。」
家に戻り熱が下がったスンハは、ハニとグミに背中を押された。
「ただい・・・・・」
「あ・っあ・・・あ~」
まだ言葉が出ないスンハは、それでも笑顔で自分の頭上高くスケッチブックを上げた。
「ありがとう、上手に書けたね。」
頭を撫でられ、抱き上げられるとスンハはスンジョの首に両腕を廻して頬にキスをした。
声が出ないだけで、以前のスンハに戻っていたことにスンジョは、ハニがスンハニとて一番の薬なのかもしれないと思った。 
こんないい状況で、まだ完全に治っていないスンハの傷付いた心には、今朝病院に向かう途中で掛った電話の話は聞かせたくなかった。

「スンジョ君、すぐにご飯にする?それとも・・・・」
「スンハと一緒に風呂に入るよ。」
スンハは嬉しいのか、小さな手をパチパチと叩いて喜びを表した。
お風呂の中でも、言葉にならないのにスンハは一生懸命に声を出そうとしていた。
「スンハ、誰に聞いたんだ?喋ることが出来なくても、声を出すという事。オンマか?おばあちゃんか?」
そのどちらでもないと首を振って、自分の方を指差した。
「自分で考えたのか?」
「ぅう」
「いい子だ 。いつかは言葉が出るようになるから、ずっと続けるんだぞ。」
「う・・・・ぅ・・・・・」
僅かだが、スンハの“う・・・・ぅ・・・・”が“うん”と言っているように聞こえる。
お喋りが好きなスンハニしたら、言葉にならないことは辛いだろう。
正常ではないインウに刺激を与えないように、幼心にも気を使っていたため事が場で亡くなったのではないかとスンジョは思った。

ダイニングでグミと話をしながら食事の後のデザートを美味しそうに食べているスンハを、リビングで新聞を読みながら見ていると、ハニがコーヒーを持って来た。
「スンハね、スンジョ君と似ているから、字も教えると直ぐに覚えるの。今日はね、お帰りなさいと、ごめんなさいを練習したのよ。」
「そうか・・・・・」
「スンジョ君?」
「ん?」
「どうかしたの?何かあったの?」
新聞を畳んで、ハニが持って来たコーヒーを一口飲んで、小さな声で一言だけ話した。
「キム・ドンウと明日会う。ハニはどうする?」
「行くわ、言って私も話をしたい。インウに恨みはないとは言えないけど、言っておきたいことがあるの。」
「インウと話が出来るのかは判らないぞ。」
「大丈夫、インウの旦那様にも聞いてほしいから、私もスンジョ君に付いて行く。」



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